2007-2008 トップリーグ 第9節 対 三菱重工相模原ダイナボアーズ
2008.01.08
佐藤寿晃監督の顔が綻ぶ。
「やっと年が明けました。両目が開いた感じですね」と。
2008年1月5日。新年初戦かつリーグ戦のターニングポイント、トップリーグ第9節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦に、ブラックラムズは39対15で勝利した。連敗ストップ、勝ち点5獲得――。チームにひとまずの安堵をもたらす要素は多分にあった。「ご無沙汰しております。無事(怪我から)復帰できました」と試合後の会見に臨んだFL伊藤鐘史主将も、手応えを振り返る。
「(ボーナスポイントを含めた)勝ち点5を取れて、相手にポイントを与えなかった。まずまずの出来だったと思います」
この試合、ここ数試合の課題だったラインアウトを見事修正した。
その要因について、ラインアウトのサインを出す伊藤は「自分が怪我でチームを離れて、上から試合を観ていたことで、(この試合では)冷静なコールが出来るようになったことと、今まで強豪と当たっていい対応策を身につけた」という2点を挙げ、隣に座っていた佐藤監督は「主将が戻ってきたこと」を付け加えている。
結果1本失敗するも、ほぼ完璧に確保。前半5分のSO武川正敏、前半9分のFL相亮太、後半14分の伊藤のトライは、すべてラインアウトモールからのトライだった。
そして、この試合もWTB小松大祐が活躍した。
前半23、30分に2トライ。いずれも左タッチライン際でボールを受け、次から次へと沸き出る相手守備を振り切る形だった。「外に行くと見せかけて内に切る」ステップで相手の正面から逃げていく、高校時代から得意のパターンだ。
「小松は非常にオールラウンドで、タックルがよく、ボールキープが出来る選手。この1年でフィジカルが強化し、社会人の当たりにも慣れてきた。元々持っているスキルが生かせるようになったと思います」(佐藤監督)
本人も公式戦に出続けているだけに、自分のすべきことはわかっていた。何より自信がついた。自身を「恥ずかしがり屋」と評していた本人の口調も強い。
「自分がトライ取ったら盛り上がるかな、と。だんだん自分を出せるようになってきた。吹っ切れたという思いはありますね」
昨年からの準備が結実された試合でもあった。佐藤監督は振り返る。12月29日、我孫子で行われたNECとの熱戦を。「(連敗で)みんな沈んでいるところで、Bチームが身体を張ってプレーをしてくれた。その流れが今日に繋がったと思います」。さらなる試合出場を志す選手たちの頑張りが光り、31対7で勝利した。
そして、その試合で活躍したHO岡崎匡秀とLO田沼広之が先発に名を連ねた。それぞれ32歳と34歳。負けられない試合でベテラン2選手が果たした功績は大きかった。「雰囲気がよかった。岡崎さんと田沼さんが入って、FWの盛り上がり方がすごかったです」と、小松も言う。
「まずは80分間声を出す。声を出せば元気が出てくる、そして動けるようになると思っている。そういう古い人間だからね。でも、それを若い奴らが気付いてくれたんちゃうかな」(岡崎)
「厳しいときほど楽しく、と僕は思っている。楽しむからこそ思い切ったプレーが生まれる、ミスは当然するんだけど、それを皆でフォローする……。そういう雰囲気は皆で作るもので、自分はとにかく声を出して盛り上げていく。それが勢いに繋がる……古臭いかもしれないですけど」(田沼)
トップリーグのような拮抗したレベルでの戦いでは、こうした"プレー以外"の要素が勝敗に直結する。それを熟知した選手たちが、勝利への潮流を作ったのだ。たとえ「古い考え」でも、今なお息づくには厳然たる理由がある。
そしてオーバー30のメンタリティーは、小松の活躍にも遠巻きながら結びついている。
「小松と池上(真介、この試合は右WTBで先発)は職場が一緒なんです。それで、僕は言ったんですよ。『お前ら2人、勝負だ。競い合え』って。それが2トライ。池上もトライにはならなかったけどいいプレーをしてたと思うし。楽しむにはこういう(試合の勝敗以外の要素)も大事かなって」(田沼)
さて、次は弟10節、コカコーラウエストレッドスパークス戦である。田沼は言う。
「(緊迫したなかで)楽しむのはきついことですけど、今日はみんな楽しんでたなぁって思います」
残り4試合、今の満ち潮をキープできるか。
(文 ・ 向 風見也)