2007-2008 トップリーグ 第1節 対 日本IBM戦
2007.10.30
台風20号の影響による豪雨と強風、すっかり闇に包まれた18時過ぎの外苑前。傘と合羽の人だかりができていた。
そこは秩父宮ラグビー競技場である。スタンドの下に設けられたリコー関係者用の受付には、選手の家族やリコー社員が三々五々集まって応援グッズを受け取っては、ベンチ外となったスーツ姿の選手と二言三言、話していた。
公表来場者数は1077人。悪天候が東京を包むなか、黒または青のポンチョを纏った観客が屋根つきのエリアから順に座席を埋めていた。
この日は2007年10月27日、ラグビートップリーグ第1節、リコーブラックラムズ対日本IBMビッグブルーの一戦だった。待ちに待ったブラックラムズの開幕戦である。
一方、スタンド下の通路では、試合の約2週間前から決まっていたという開幕メンバーの22人が各々、いつもよりも少し早めに身体を動かしていた。「こんな時間に身体を動かすなんて」と、チーム関係者も決して普段どおりではない一部始終を見つめていた。「大学の時も開幕戦は一番緊張した」。控えメンバーに入ったルーキーSH湯淺直孝もこう言っていた。
18時20分、それぞれ各自耳にしていたi-podのイヤホンを外して集合、全体ウォーミングアップで身体をぶつけ始めた。過度な緊張を避けるために、必要以上の声をあげる。
佐藤寿晃監督は選手たちに「身体張ろう」とだけ伝え、直前の円陣は、伊藤鐘史主将の一言で締められた。
「みんなで助け合って!リコー……TAFU!」
19時。雨足が強まるなか、ビッグブルーボールでキックオフ。
試合前のコイントスで勝利して風上の陣地を取っていたブラックラムズは、立ち上がりからキックで有効に陣地を稼いだ。SH春口翼は考えていた。「今日は陣取り合戦になるな」と。“雨でボールがすべりパスの展開がしにくい状況、キックで陣地を稼いでFW近辺を攻めていこう”――この思いがチームで統一されていた。
「接点(FWによるボールの争奪戦)で力の差を見せられました」(春口)。かたやビッグブルーは、その接点で再三ペナルティーを侵す。とくに前半10、24分自陣でオフサイドを連発。1つ目は22メートルエリアやや右寄り、2つ目は同エリア中央、ブラックラムズはいずれもPGを選択し、SO河野好光が確実に決めた。スコアは6対0。逆にビッグブルーは前半29分にあったPGの機会を得るも成功ならず、ブラックラムズのリードで前半を終えた。
風は大分収まった――ハーフタイム、戦況を見つめていた佐藤監督はこう判断し、風下に回った後半も、ブラックラムズは陣取り合戦を続けた。
さらには「風下でしっかりディフェンスしてくれた」(佐藤監督)。「風上に立ち、陣地を意識した」(ビッグブルー・FB高忠伸主将)。ビッグブルーの反撃もあり、ブラックラムズにとっては相手ボールの時間も増えた。ボールが雨水で滑りやすくなった。その影響でダイレクトタッチを連発するなどブラックラムズのミスもあり、なかなかトライラインには到達できなかった。
それでも「僕は次の試合が保障されているわけじゃない」というルーキーWTB小松大祐による再三のタックルなど、好守でペースを保ったのだ。
とどめは後半10分だった。敵陣22メートルライン手前中央での接点で、ビッグブルーがまたもオフサイド。河野が3度目のPGを慎重に決めた。
後半25分にはビッグブルー高のPG成功で3点を返されるも反撃はここまで。ブラックラムズは我慢の守備を見せ続けた。ラストワンプレーのブザーが鳴った後、IBMの最後の攻撃も、「守りきろう」(佐藤監督)という意図で後半35分から投入された湯淺がタックル。IBMのノックオンで、ノーサイド。
安堵の表情で健闘を称えあう黒いフィフティーンの姿がそこにはあった。
「悪天候のなかラグビーをするのが難しかったけど、相手のミスから加点していって、点数とともに余裕を持ちながらゲームができました」
プレスルームでの記者会見。“TAFU”と書かれた白いTシャツを纏った伊藤主将は、試合をこう述懐した。「実は練習でやっていた戦術は何にもできてないんです」とも言った。あくまで、直前まで想定できなかったグラウンドコンディションでの“ガマン比べ”に勝利したのだった。「勝ったことだけが収穫」(HO滝澤佳之)と、確かにミスもあったが、練習試合で課題となった個々の集中力は切れなかった。これが最大の勝因となった。
移動用のスーツに着替えた選手たちを前に、佐藤監督はこう言葉を向けた。
「お疲れさん!次は東芝、チャレンジャーとしてやっていこう!」
次節は11月4日。前年度王者、東芝ブレイブルーパスに挑む。
(文 ・ 向 風見也)