プレマッチ 対 クボタスピアーズ戦
2007.10.10
「すばらしいラグビープレーヤーの集まりが、すばらしいラグビーを作る」
2007年10月6日、トップリーグ2週間前のプレマッチ・クボタスピアーズ戦後の、円陣中央。ブラックラムズの佐藤寿晃監督はこう言った。
この試合はいわば、その「すばらしいプレーヤー」を選ぶための一戦だった。「ゲームフィットネスが大丈夫な選手は1本目で替えました」(佐藤監督)。その言葉通り、ケガ明け、ボーダーライン上の選手に多くのチャンスが与えられた。
そんななか、吹っ切れた様子で1、2本目を戦ったのは入部2年目、WTB池上真介だった。かつて“清宮ワセダ”で大学日本一を獲得した際のCTBと、現在のWTBの狭間で悩んでいたのが6月ごろ。今はWTBに専念する決意が見えた。
「春までは、練習では(本来やりたかった)CTB、試合はWTBという感じでどっち付かずだった。シーズンを考えて、WTBに絞ろうと夏合宿で決めました」
WTBの動きが自然にできるようになったと、池上は言う。この試合ではなかなかボールが回ってくるシーンはなかったものの、オフ・ザ・ボールの動き(守備時のポジショニングなど)はスムーズにこなせたと振り返った。
今後は、ルーキーの小松大祐(1本目の4分、敵陣中央22メーターライン過ぎのラックからCTB金澤良、FB小吹祐介と繋がったボールを最後に受け、先制トライを決めた、ゴールは成功)やシュウペリ・ロツコイ(この試合は1本目のCTBとして出場し、25分にトライを決める、ゴールは失敗)らとのポジション争いが続くが、同級生の一言を原動力とする。
「この間、隆道(W杯に出場した佐々木隆道・サントリーサンゴリアス)とバーベキューをしました。『W杯は出るのと出ないのとではまったく違う』って言うんです……僕も4年後を目指したいと思いました」
1本目は、スピアーズに22、41分にトライを奪われ、ともにゴールも成功(トライはそれぞれ高野彬夫、カトニ・オツコロ)、ブラックラムズは12対14と敗れるも、「支配はしていた」(佐藤監督)。
それ以上に「ちぐはぐだった」(同)のが、2、3本目だった。
特に2本目、5分に敵陣10メータエリア右スクラムからの展開から小吹がトライ、ゴールを奪うも、13、18、30分とスピアーズが続けてトライ(それぞれPR香月直裕、SH井上碩彩、FL鈴木康太、ゴールは1、2本目が成功)。「ラインアウトのミス、キックオフのダイレクトタッチなどで悪い流れを作ってしまった」(佐藤監督)。スコアは7対19となった。
佐藤監督と同じような感想を抱いていたのは、この2、3本目に出場したLO井上隆行だった。山品博嗣BKコーチが「31歳にしてさらに伸びています。元々フィットネスはすごいものを持っていたが、最近は戦術理解が高まった」と言う、生真面目な人。試合後は悔いていた。
「ラインアウトのミスからターンオーバーされたりして、後手に回ってしまった。それでディフェンスも人数が足りなくなって…次の三洋戦(10月12日三洋電機ワイルドナイツ戦)はみんなで勝って、いい雰囲気を作りたいです」
3本目も流れは変わらず。FW戦を優位に進めたスピアーズが12、19分にモールからトライを奪う。さらに24分、敵陣まで攻め込んだブラックラムズのパスをインターセプトしたWTB根岸康弘が独走トライ。ブラックラムズも、33分に敵陣ゴール前ラインアウトからFL赤羽根拓也がトライを奪いゴールも決めるが、反撃はここまで。7対15でノーサイドを迎えた。
「今日は焦ってたかな」と佐藤監督が振り返り返るのは、ルーキーSHの湯淺直孝のプレーだった。3本目に出場していた湯淺はクボタFW陣のプレッシャーに四苦八苦、試合後も反省しきりだった。
「公式戦では安定感、リズムに合わせたパスアウトが求められる。慌てないで生きたボールを出せるようにしないと……」
視線の先は、1、2本目に出場し、混戦でも安定したパス捌きを見せていた先輩SH・春口翼に向けられている。練習後はパス練習を繰り返し、試合の映像を部屋へ持ち帰っての“一人反省会”も欠かさない。この試合からは何を見出すか。
総じて、「勝てる試合だったと思います」と、佐藤監督は振り返る。「三洋戦は開幕を見据えたメンバーで」とも。とはいえ、長丁場のトップリーグ、勝てる試合を本当に勝ち続けるには、全員の力が必要であることも承知の上だ。15人で全試合を戦う事は現実的に不可能。この試合を満足に終えた選手、そうでない選手を含め、全員が必要なのだ。
夏合宿時、前述の井上は言っていた。
「トップリーグは長いですから、みんなが一人ひとり頑張って、力を合わせていきたいと思います」
(文・向 風見也)